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カスハラに関する裁判2(東京地裁H30.11.2)
前回に続き、カスハラに関する裁判例を紹介します。
カスハラの加害者について、暴行罪、脅迫罪といった刑事事件になった例は複数報道事例等があります。このように、度が過ぎるカスハラ、特に暴力を伴うようなもの、土下座を強要されるようなものについては、積極的に警察相談をすることが求められます。
一方、このような加害者を被害者が提訴している例は限られるように思われます。
裁判例として多いのは、カスハラにあった従業員が、勤務先を「安全義務違反」として訴える例です。
今回ご紹介する例は、カスハラ被害者とされる店員が、カスハラ加害者と勤務先の双方を訴えた珍しい裁判例(東京地裁平成30年11月2日判決)です。
この事案は、スーパーの客とトラブルになったレジ担当従業員から会社に対し、安全配慮義務違反の主張がなされています。
この事案については、多くのサイト等で、雇用主が適切な対応をしていたので、損害賠償請求義務を免れたとしています。原告が求めたのは、トラブル対応体制等と当該客の出入り禁止でした。
この裁判例を確認すると、裁判所は、次のような認定により、原告が義務違反と主張する事項について、その義務がない、もしくは義務違反はない、としています。
@苦情を申し出る客への初期対応は指導していたし、店舗マネージャー不在時には「サポートデスク」や近隣店舗のマネージャー,エリアマネージャーに連絡をすることができる態勢にあり,店員が接客においてトラブルが生じた場合の相談体制が整えられていた。
A店舗には,店舗マネージャーやエリアマネージャーの緊急連絡先や近隣店舗の連絡先が掲示されており,トラブルに対して正社員に相談して,指導を受けたり対応を求めたりする体制が整えられていた。また,各店舗のレジカウンターには,非常事態に備えて通報用の緊急ボタンが設置されており,その存在は従業員に周知されていた。そして,被告会社は,深夜の従業員を1名ではなく必ず2名以上の体制とし,一人が接客をしながら他の一人が相談及び通報等をして接客トラブルに対応することができるようにしていた。
B会社は,平成28年7月及び8月のトラブルの際は,原告の接客態度について指導する一方,当該客へ謝罪するとともに,原告への退職要求に応じることなく,関係が修復されるよう双方に働きかけたり,原告に他店で1週間勤務させる等して2か月程度トラブルを鎮静化させた後,同年10月13日にトラブルが再発した際には,入店拒否措置の可能性を当該客に伝え,その後当該客は来店しなくなったことが認められる。このような被告会社の対応は,原告と当該客との間のトラブルを終息させるために考えられる策のうち穏便なものから順次実施し,その効果を上げていたと認められる。そうすると,この間,被告会社において,入店拒否措置という厳しい措置を早期に選択すべき義務はなかったと認められる。
この会社の対応は特段にレベルが高いことをしているというよりは、常識的なトラブル対応をしている印象です。
そして、この事案では、原告は当該客も被告としていますが、当該客に対する請求も棄却されています。そうすると、この事案では上記の会社対応がどのようなものであれ、会社への請求も認められなかった可能性が高く、かなり原告に個性があった事件のようにも思われます。
個人的には、原告が当該客を訴えるに必要な住所、氏名をどうやって入手したのか気になるところではありますし、当該客に対する賠償はいくらか認められてもいいのではないかと思わなくもありません。関心がある方は、是非、裁判例を読んでいただければと思います。
以上
本説明は本原稿掲載日(令和8年5月)時点の情報により記載され、適切に更新されていない可能性がありますので、ご注意下さい。
回答者 弁護士 小川 剛
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