おもしろ知財ツアー

                     前へ<<               >>次へ
福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《令和8年9月号》
おもしろ知財ツアー117

 弁理士の高松宏行です。最近、知りたいことがあるときに、Googleなどの検索エンジンではなく、ChatGPTやGeminiなどの生成AIに質問する方が増えています。複数のウェブサイトを一つずつ読む必要がなく、AIが情報を整理して短時間で答えてくれるため、非常に便利です。
 便利であるその一方で、「AIは回答を作るための情報をどこから集めているのか」という問題が生じています。今回は、新聞社と生成AIをめぐる著作権訴訟について取り上げたいと思います。
 読売新聞社、朝日新聞社及び日本経済新聞社は2025年8月、AI検索サービスを運営する米国のPerplexity社を東京地方裁判所に提訴しました(正確には、読売新聞社による訴訟と、朝日新聞社及び日本経済新聞社による共同訴訟)。
 新聞社側は、Perplexityが新聞記事を許可なく取得・複製し、その内容を利用した回答をユーザーに表示しているとして、記事利用の差止めや損害賠償などを求めています。
 通常の検索エンジンは、検索結果として記事の見出しや短い説明を表示し、詳しい内容を知りたい利用者を新聞社のウェブサイトへ誘導します。これに対して生成AIは、複数の記事をまとめた詳しい回答を検索画面上に表示する場合があります。そのため、利用者が元の記事を読みに行かなくても、概要を把握できる場合があります。
 この点について新聞社側は、取材や編集に多額の費用をかけて作成した記事を無断で利用されるだけでなく、新聞社のウェブサイトへのアクセスが減少し、広告収入や有料購読、記事のライセンス収入にも影響が生じると主張しています。
 今回の訴訟では、AIが記事を取得・保存する行為が著作権法上の「複製」に当たるか、記事の内容を回答として表示する行為が法的範囲を超えていないか、AIによる情報解析のための利用として認められるか、などが問題になると考えられます。
 もっとも、新聞記事に書かれた「事実」自体は、著作権で独占できるものではありません。例えば、「今日、福岡市で○○イベントが開催された」という事実を伝えること自体は、原則として著作権侵害にはなりません。しかし、記事の文章表現や、取材内容の選択・構成などに創作性があれば、その部分は著作物として保護されます。したがって、単に事実を短くまとめたのか、元の記事の表現や構成を実質的に再現したのかが重要になります。
 企業においても、外部の新聞記事や有料記事をAIに読み込ませ、作成された要約を社内資料や自社のウェブサイトにそのまま掲載する場合には注意が必要です。出典を記載すれば必ず適法になるわけではなく、引用する必要性、引用部分の明確な区別、主従関係など、著作権法上の要件を満たす必要があります。特に、元の記事を読まなくても内容の大部分が分かるほど詳しい要約を対外的に公開する場合は十分に注意しなければなりません。
 本件は現在も係争中であり、裁判所の最終的な判断はまだ示されていませんが、生成AIを利用する企業にとって「AIが作った文章だから自由に使える」とは限らないことを示す重要な事例になるかもしれません。
 生成AIは便利なツールとして広く世間に浸透しておりますが、入力する情報の権利と、出力された文章の利用方法の両方を意識することが重要になってくると思います。

 今月は以上です。

回答者 弁理士 高松 宏行
高松特許事務所
弁理士 高松 宏行
〒810-0041 福岡県福岡市中央区大名2-4-30 西鉄赤坂ビル7F
電話092-711-1707 FAX 092-711-0946
                     前へ<<               >>次へ
おもしろ知財ツアーリストに戻る