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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《平成28年6月号》
マタハラ予防のために
  質 問

【質問者】
 製造業(正社員 10 名、パート 30 名)

【質問内容】
 当社は、製造業を営む株式会社です。従業員の 8 割は女性です。女性従業員が妊娠した場合、10 年くらい前迄は例外なく退職していました。当社としましては、仕事に慣れた人材の流出でもありましたが、最近は出産しても育児休業を取得し、子供が 1歳になる頃までに復職するケースが増えました。特に最近は求人難ですし、この傾向自体については歓迎しています。
 しかし、悩ましいのが「マタハラ」です。製造現場では、作業のため多少重い物を運ぶこともあります。周囲の他の従業員が妊婦に気遣ってくれるケースがほとんどで有り難い状況ですが、問題は妊婦自身の態度です。気遣ってくれる周囲に対し、感謝の気持ちを述べたり態度を示したりするのが通常ですが、中には「私は妊婦だから気遣ってもらって当然」のような態度をとる者がいます。周囲も人間ですから、次第にあまり気遣いしなくなります。そしてついにその妊婦から、 「マタハラにあっている」と相談があったのです。話しによると、妊婦なのに通常の従業員と全く同じ仕事をさせたまま手伝ってもくれないということです。
 周囲の従業員にも確認しましたところ、妊婦本人が完全に孤立してしまっていて、問題の原因も妊婦にあるとの考えのようです。客観的に、周囲の従業員の話の方が正しく思えます。しかし、このまま放置してマタハラだと訴えられても困ります。どのような対応をしたらよいでしょうか。

  回 答

 【マタハラ】
 マタハラとは、マタニティハラスメントの略語です。妊娠だけでなく、出産、育児等も含めて、これらを理由として嫌がらせをしたり、労働条件で不利益な取扱いをしたりすることをいいます。今回のご相談のマタハラは、前者の嫌がらせにあたるかどうかという問題になります。ただ、いただいた情報だけでは、具体的にどのような行為があったか不明確で、マタハラにあたるかどうかの判断は難しいです。

 【妊娠と就業】
 労働基準法は、産後 8 週間については原則就業禁止としていますが、産前については就業を禁じていません。出産当日までを産前としていますので、法律上は出産するまで就業させても違法ではないということになります。産前 6 週については本人の希望があれば休業させなければならないとなっていますが、逆に言うと、産前 6 週に入る前までは本人が希望しても、これを認めずに働かせても違法ではないわけです。
 しかし、妊婦です。もし仕事が原因で取り返しのつかないことが生じたら、大問題です。そう考えますと、時期を見て産前休業させるべきだということになります。
 ご相談の内容から、仕事の内容に、重い物を運ぶことが含まれているようです。これは、妊婦にさせるべき仕事ではないでしょう。会社の方針として、具体的な重さを示して、それ以上の重い物について妊婦に運ばせないように指示通達をしておく必要があると考えます。
 あと、いつから産前休業に入るかについて、本人と打ち合わせをして確認しておくべきです。作業職なので、できれば少し早めの休業を認めることが望まれます。

 【マタハラ原因の一つ】
 マタハラが生じる原因として、大別して 2 つあると考えます。1 つめは、周囲の無理解です。そしてもう 1 つが、本人の問題です。
 妊娠、育児等において、 「妊婦だから」 、 「子が病気したのだから」という理由に基づいて、休んだり特権的なことが認められることについて「当然」のような感覚をもっているケースこそ、本人の問題です。
 本人の性格に起因するのでしょうが、客観的に冷静に考える必要があると思います。労働契約とは、労働者が定められた労働を提供し、事業所がそれに対して賃金を支払う契約です。即ち、本来は個人的な理由で休むことは契約違反です。これが妊娠や育児の場合は、例外的に保護されているにすぎません。そして、本人は、いつでも退職する選択があるにもかかわらず、労働契約の継続を選択しているわけです。労働契約を継続する以上、当然に労働者として周囲の労働者との協調性が求められます。この認識に欠けると、周囲との軋轢が生じかねないのです。
 従って、本人とよく話をし、自分だけ気遣ってもらうことを望むのではなく、周囲にも気遣うよう指導されることが必要かと考えます。周囲とうまくやってもらわないと、マタハラとして貴社が責任を問われるリスクもありますから、慎重なご対応をお願い致します。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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