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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《平成29年8月号》
契約社員、パートと職務内容が同じ正社員
  質 問

【質問者】
 製造業(正社員 20 名、契約社員 30 名、パート 50 名)

【質問内容】
 当社は、製造業を営む株式会社です。社歴は長く、現社長は 5 代目社長です。正社員は、管理職、営業職、商品開発職、事務職を担当し、契約社員とパートは作業職を担当しています。正社員は職種の異動がありますが、契約社員とパートは職種限定です。正社員は、入社後一定期間は製造現場で作業職を経験します。人によって期間が異なりますが、数カ月から 2 年程度の範囲内です。ところが、稀に正社員でも営業や商品開発の職種が全く不向きで、事務能力もない者がいます。この場合は、正社員として営業職か商品開発職に配属された後、作業職に配置することがあります。実質的に、契約社員と全く同じ職務となってしまっています。
 ここで気になるのが、同一労働同一賃金です。当社の賞与や退職金は、昔から基本給と連動するため、基本給はほとんど昇給せずに主に諸手当を昇給させるしくみで運用してきました。即ち、基本給だけを比較すると、正社員、契約社員、パートの 1 時間当たりの賃金はさほど変わらないのですが、正社員だけ諸手当が支給され、その部分が正社員と非正社員との差になっています。原則は同一労働ではないはずですが、結果として数名の正社員が同一労働の実態があることが気になっています。諸手当の他には、賞与と退職金は正社員のみ支給し、契約社員には賞与の時期に少額の寸志を支給しているだけという差があります。
 作業職とせざるを得ない正社員について、契約社員に転換させようとも考えましたしかし本人にも生活があり、仕事の問題はあるものの人間性が悪いわけではなく、気の毒で話しができません。この状態では、近い将来同一労働同一賃金を理由として契約社員にも諸手当、賞与、さらに退職金を支払わなければならなくなるのではないかと不安に思っています。どうしたらいいでしょうか

  回 答

 【労働契約法第20条】
 労働契約法第 20 条は、無期契約(正社員)と有期契約(契約社員)との労働条件に相違がある場合は、職務内容等を考慮して不合理であってはならないと規定しています。簡単に言えば、「仕事が同じなら、差別するな」というものです。何についての差別が問題になるかといえば、賃金だけに限られず「労働条件」とされています。賞与、退職金の他、福利厚生等も含まれることになります。

 【難しい対応】
 貴社の正社員の職務は、管理職、営業職、商品開発職、事務職とされていますが,実態として作業職もあり得るという状況のようです。まず最初に検討したいのは、理由の如何に関わらず、正社員については研修目的である場合を除き、絶対に作業職を担当させないことが考えられます。こうすれば、「職務内容の相違」が認められることになると思われます。
 問題は、正社員であっても作業職を担当させざるを得ない場合です。実は、契約社員だけでなく、パートについても「職務内容」が同一であれば、差別的取扱いができないこととなっております(パートタイム労働法 8 条、9 条)。即ち、契約社員だけでなく、パートに対しても同じ待遇を覚悟するような話しになりかねないわけです。

 【職務内容】
 ここで考えたいことは、同じ作業職であっても、責任の程度、作業内容その他において、職務内容が異なるような運用ができないかという点です。現実的に難しい面が多々あるとは思いますが、そうしなければ、例の「同じ待遇を覚悟」となりかねません。どうしてもできないのであれば、やはり正社員には作業職を担当させるべきではない、という話しになります。
 正社員に支給されている諸手当の内容がわかりませんが、仮にその手当が、管理職手当、営業手当、商品開発手当、事務手当等で、作業職であれば支給されないようになっていれば、とりあえず月々の賃金については作業職の正社員と契約社員等に差がないことになりそうです。このような可能性は極めて低いとは思いますが。しかし、仮にそうでも、賞与や退職金の問題からは逃れられません。
 契約社員やパートと正社員との間に、賃金等について差がある状態を維持するための結論は、「職務内容が相違」という状態にするしかないのです。そのためには、既述の通り、そもそも正社員に作業職を担当させないことが客観的に最も認められやすい対応となります。どうしてもこれができないときは、作業職でも正社員と非正社員との間における職務内容について、客観的に説明できて納得してもらえる相違がある状態にするしかありません。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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