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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《平成30年1月号》
正社員と同視すべきパートの賞与と退職金
  質 問

【質問者】
 事務代行業(正社員10 名、パート30 名)

【質問内容】
 当社は、事務代行業を営む株式会社です。正社員は週5 日・1 日8 時間勤務、パートは週5 日、1 日4 〜 7 時間30 分勤務で、いずれも職種はほとんどが事務職です。20年以上前は、ほとんど正社員だったのですが、その頃から後は人件費の問題があって基本的にパートしか雇用しなくなりました。しかし、3 年くらい前から、どうしても人材確保しなければならないタイミングで正社員でなければ雇用できない状況があって、やむを得ず正社員採用を再開した経緯があります。
 正社員もパートも職務内容がほぼ同じなので、後日問題にならないように1 時間あたりの時給単価をほぼ同じ水準にしています。パートは時給900 円スタートで、正社員は900 円× 8 時間×月20.5 日= 149,760 円なので月給15 万円スタートとしています。正社員とパートとの相違点は、ボーナスと退職金だけです。ボーナスは評価によって個々に差がありますが、勤続1 年以上を対象として年2 回支給しています。正社員は最低でも1 回10 万円(年間20 万円)程度以上ですが、パートは寸志として1 回2〜 3 万円(年間4 〜 6 万円)です。退職金は、勤続3 年以上を対象として支給しています。正社員は、勤続3 年で10 万円程度ですが、10 年で60 万円、20 年で150 万円、30年で300 万円程度を支給しています。パートには支給しません。
 先日、勤続20 年のパート2 名が、定年退職となりました。この2 名ですが、驚いたことに過去の正社員との賞与の差額と退職金を支払って欲しいと言ってきたのです。
 支払ってくれないなら、法的手段を執ると…。当社は、これを支払う義務はあるのでしょうか。

  回 答

 【パート労働法】
 労働契約の原則は、個々に労働条件を定めて相互に合意して契約締結するものです。
貴社のパートとの労働契約は、正社員に賞与が支給されるときは寸志が支給され、退職金は支給されないという条件で合意し、契約締結されたものです。従って、原則論でいえば、定年退職となった2 名のパートに対して賞与の差額や退職金を支払う義務はないということになります。しかし、合意して契約締結した場合であっても、その内容が法令に抵触した場合は、原則として法令の基準で契約したとみなされます。
貴社の場合、気になる条文は、パートタイム労働法第8 条です。

 パートタイム労働法第8 条
 事業主が、その雇用する短時間労働者の待遇を、当該事業場に雇用される通常の労働者の待遇と相違するものとする場合においては、当該待遇の相違は、当該短時間労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 読みにくい条文なので簡単に言うと、「パートの待遇と正社員の待遇が異なる場合は、その待遇の差は、業務内容や責任の程度、異動の範囲その他を考慮して不合理なものは認めない。」のような感じです。

 【最近の裁判例】
 最近の裁判例(一般財団法人京都市立浴場運営財団事件、京都地裁平成29 年9 月20日判決)に、正社員とパートの業務内容、責任の程度、異動範囲等がすべて同じだと認定し、支給対象外だったパートへの退職金支払いを命じたものがあります。  貴社の場合、業務内容は同じようですが、責任の程度、異動の範囲等の実態がわかりませんので、賞与の差額や退職金の支払い義務があるかどうか断定的な判断はできません。一般的に経営者は、「正社員とパートとでは責任の程度が違う」と主張するケースが多いようです。しかし、貴社の場合は逆にそうであれば何故採用時の給与が同水準なのかという問題があります。いずれにしても、裁判所で責任の程度の違いを立証することは簡単ではありません。

 【話し合い】
 定年退職の2 名が本当に提訴した場合、敗訴リスクはそれなりにあるように感じられますが、どうでしょうか。もしそうであれば、少なくとも申出を拒絶するのではなく、まずは話し合ってみてはどうでしょうか。そもそも賞与は時効2 年ですから過去の差額すべてを支払う義務はありませんし、退職金も正社員と比較して労働時間は短いから全く同じ額というわけではないと考えられます。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
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TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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