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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《平成30年9月号》
正社員と非正社員との諸手当等の相違
  質 問

【質問者】
 広告代理業(正社員10 名、契約社員5 名、パート・アルバイト10 名)

【質問内容】
 当社は、広告代理業を営む株式会社です。支店、営業所等はありません。当社の賃金制度は、正社員と契約社員は月給制、パート・アルバイトは時間給制です。賞与は年2 回、正社員にのみ支給します。退職金も正社員のみ対象です。通勤手当はすべての従業員に実費支給しております(上限月2 万円)。その他の諸手当として、職務手当、役職手当、家族手当、住宅手当、精勤手当がありますが、これらの手当は正社員のみ支給です。@職務手当:営業職は月3 万円、その他の職種は月1 万円、正社員全員に支給。A役職手当:部長月6 万円、課長月3 万円、主任月1 万円を支給。B家族手当:被扶養配偶者月5000 円、子1 人につき3000 円を支給。C住宅手当:本人名義で住宅を賃貸借している場合、家賃月額に応じて月1 万円、1 万5000 円、2 万円、2 万5000円、3 万円の5 段階、住宅ローンの場合は返済月額に応じて月1 万円、1 万5000 円、2万円の3 段階で支給。D精勤手当:1 カ月間無遅刻無欠勤の場合月1 万円、1 回だけ遅刻早退等があった場合月5000 円を支給。  以上のような諸手当ですが、先日、契約社員から「正社員も契約社員も全く同じ仕事をしているのに、諸手当や賞与・退職金が正社員にしか支払われないのはおかしい。
 すべての手当を払って欲しい。」と言われました。確かに、最近の最高裁の判例で、正社員にだけしか手当を支払わないことは問題があるように聞いておりました。しかし、採用時に契約社員には諸手当は支給しないという確認を経て採用したわけで、完全に納得がいきません。法律上は、支払わなければならないのでしょうか。また、あわせて気になるのがアルバイトやパートです。役職のない正社員と比較すると、仕事内容はほとんど変わりません。まさかアルバイトやパートにも諸手当等を支給しなければならないなんて話しにはなりませんよね。

  回 答

【ハマキョウレックス事件】
 平成30 年6 月1 日の最高裁判決は、「期間の定めのあることを理由として」諸手当等について不合理な差を設けることは違法だと示しました。労働契約法第20 条を根拠としています。ハマキョウレックス事件で不合理とされた手当は、通勤手当、無事故手当、作業手当、給食手当、皆勤手当でした。しかし、単に手当の名称で決まるのではなく、個々の手当の目的等に照らして判断されます。
 貴社の場合、正社員と非正社員との仕事内容が同じだとすれば、かなり問題がありそうです。
@職務手当は、単に職種という理由で支給されています。非正社員であっても同じ職種であって、正社員だけに支給することが認められる理由が見当たりません。
A役職手当については、貴社が役職に任命して初めて支給される手当なので、非正社員に対して役職に任命しない限り不合理な差とはいえないでしょう。
B家族手当は、非正社員でも扶養する家族が存在すれば、不合理だとされる可能性が考えられます。しかし、最高裁は家族手当については明確な判断をしていません。もしかしたら、正社員のみ長期雇用を前提としていることから家族の扶養を視野に賃金制度設計することについて、合理性が認められる可能性もあるのかもしれません。
C住宅手当は、最高裁は不合理とはいえないと判断しましたが、その理由は正社員のみ全国転勤が予定されているという点でした。貴社の場合、正社員についても転居を伴う異動が予定されていないため、不合理と判断される可能性が高いと考えられます。
D精勤手当は、最高裁は不合理として高裁に差し戻しています。精勤手当についても、非正社員に支給しないことは不合理と判断される可能性があります。
 以上から、職務手当、住宅手当、精勤手当は非正社員に対しても支払わなければならない可能性が高く、家族手当は微妙で、役職手当は問題ないと考えられます。

【賞与、退職金】
 最高裁は、不合理な差があったとしても、正社員に適用される就業規則が適用されることにはならないとし、非正社員に対して賞与、退職金の支給は命じませんでした。
 従って、完全に大丈夫とまではいえませんが、支給する必要は無いと考えられます。

【パート等】
 問題となっている労働契約法第20 条は、法改正によりパートタイム労働法に移行されることになっております。即ち、パート等だからという理由だけで待遇差があれば、不合理とされる可能性が益々高まります。
 全く納得できないお気持ちは理解できますが、会社を守るため、賃金制度そのものについて、見直す必要があるように考えます。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
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TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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