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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《令和3年10月号》
業務関連資格取得に対する報奨金
  質 問

【質問者】
 建設業(正社員 20 名、パート 2 名)

【質問内容】
 当社は、建設業を営む株式会社です。建設業には、様々な資格が定められています。
 資格者が在籍しなければ受注できないものがあったり、資格者が在籍することで仕事の幅が広がったりします。そこで、当社では、従業員に対して建設業に関連する資格取得を積極的に奨励しています。
 先ず、当社内の基準として、様々な資格をA、B、Cの三段階に区分しています。
 Aは、当社として重視する資格で、かつ難易度も高い資格です。Bは、重視する資格、又は難易度が高い資格です。Cは、その他の当社が奨励する資格です。
 ABCとも、受験料や受講義務のある講座等の受講料は、会社負担としています。
 ABについては、従業員が希望すれば資格取得のための任意の講座の受講料等を、会社負担としています。
 資格取得後は、さらに報奨金を支給します。A 10 万円、B 3 万円、C 1 万円です。
 この度、ある 20 代の従業員が、当社の奨励制度を利用して、任意の講座を受講し、Aに該当する資格を取得しました。受験料や任意の講座受講料で約 30 万円、報奨金 10万円を支給しました。ところが、約 1 カ月後に退職を申し出てきたのです。しかも、既に転職先も決まっているというのです。
 「40 万円返せ!」と言いたいところですが、多分無理なのだろうと思います。今後のため、奨励制度に最初から「○年以内に退職したときは、全額返還とする」と定めておけば、返還させられるでしょうか。

  回 答

【資格等の取得奨励】
 会社にとって、従業員の能力向上は、願ってもないことです。そこで、貴社のように、報奨金等の制度を設け、資格取得等を奨励することは、一般に広く行われています。会社の目的は、従業員が資格取得することで知識等を身につけ、もって会社の業務水準を向上させ、さらには新たな業務受注につなげることなどが考えられます。これらのメリットのために、報奨金等を負担するわけです。
 しかし、貴社の今回のご相談のように資格取得後すぐに退職するのであれば、本来の目的を達成できないだけでなく、無駄な費用を負担して、場合によっては人材を競合他社に持って行かれてしまうわけです。「返せ!」と言いたくなるのは、当然の心情と言えるでしょう。

【返還請求】
 そこで、あらかじめ「○年以内に退職した場合は、全額返還とする」と定めておくことが考えられます。基本的に、このような定めを直接禁止するような法令は存在しません。従って、このような定めをおくことで、返還を求めることは可能でしょう。
 ただ、これが訴訟になった場合、裁判官がどう判断するかは、別の問題になります。
 裁判例では、様々な事例がありますが、業務と関連する資格の取得等のため要した費用であれば、一般に会社が負担した資格取得費用を返還させることは難しいと判断されています。業務関連の資格取得のための受講料等について、たとえ従業員が任意で希望したとしても、いったん会社が負担してしまえば、最早返金させることはできないと考えておくべきでしょう。

【貸付】
 では、どうすべきか。考えられる方法として、資格取得費用を会社が負担するのではなく、あくまでも希望する従業員に貸し付けることが考えられます。その上で、資格取得後○年間継続勤務することで、返済を免除するという方法は、それなりに広く行われています。
 しかし、裁判例では、@業務との関連性、A貸付額、B免除までの期間、等を総合的に考慮し、形式的に貸付とされていても、実態判断で返済義務無しとするケースも少なくありません。これも、取得した資格の業務性がかなり重視されているようです。
 より確実な運用を目指すのであれば、貸付に関し、形式的でなく実質的な貸付にすることが考えられます。即ち、本当に月々返済させるのです。たとえば 30 万円の貸付であれば、月 5000 円ずつ返済させ、5 年で完済です。途中で退職した場合、残債を請求することになります。
 これでは従業員にメリットがないと思われるかもしれません。しかし、そうならないような制度とすべきです。資格取得後に、たとえば毎月資格手当を支給することで、従前と比較して返済によって手取額が減らないようにすることが考えられます。別途報奨金もありますから、前向きな従業員にとっては十分なメリットになると考えます。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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