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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《令和7年8月号》
歩合給が悩ましい
  質 問

【質問者】
不動産業(正社員20 名、パート2 名)

【質問内容】
 当社は、コンサルタント業を営む株式会社です。従業員数は10 名そこそこですが、法に遵って当社の就業規則を作成し、届出をしています。就業規則の諸規定のうち、従業員の関心を集めるのが「休み」と「給与」です。今回、この「休み」について教えて下さい。
 当社は、不動産業を営む株式会社です。主に不動産の売買・賃貸等を業としています。仲介手数料が、当社の利益確保の鍵となります。そのため、成約した従業員に対しては、それなりの額の歩合給を支払っています。
 歩合給は、現実に当社に入金があった月の翌月に、別途定める割合で支給しています。そのため、これまでも4 月〜 6 月の歩合給が大きいと、社会保険料が高くなってしまうという弊害はありました。特に3 月は賃貸の成約件数がとても多く、その歩合給が4 月給与で支給されることは問題でした。そこで、給与計算締切支払日を末日締切翌月15 日支払いから、20 日締切当月末日支払いに変更し、せめて3 月20 日までの入金分を3 月給与の歩合給とする等の努力をしてきました。
 ところで、先日退職した者から、「未払い残業代及び年次有給休暇不足分を支払え」と弁護士名で内容証明郵便が届きました。当社は残業代はしっかり支給してきましたので、未払い残業代などありません。なのでとても驚いたのですが、弁護士からですし内容証明をよく読むと、歩合給分が残業代に反映されていないという主張のようでした。年次有給休暇についても歩合給がどうとか書かれてましたが、どう読んでも全く意味がわかりません。
 当社は、就業規則に「歩合給には、時間外労働の対価としての部分を含むものとする。」と定めています。年次有給休暇についても、取得した日に対しては普通に出勤したものといて給与は支払っています。悪徳弁護士から言いがかりを付けられているとしか思えません。しかし、応じなければ法的手段を執ると書かれているため不安もあります。何か問題がありましたら、教えて下さい。

  回 答

【歩合給と残業代】
 歩合給を支給する場合、逃げられないのが残業代です。その計算方法は通常の残業代と大きく異なり、毎月変動する歩合給支給額と総労働時間数によって算出しなければなりません。事業所にとってはとても悩ましいといえます。そのため、「歩合給に残業代込み」にしたいと考えるのは、ある意味当然かもしれません。しかし、「込み」としても、裁判例により認めらません。
 要件は、通常の固定残業代と同様だと考えてください。大前提として、歩合給部分の額と残業代部分の額が明確に区分されていなければ、認められません。残念ながら、この時点で貴社の「残業代込み」が認められることはありません。今回は、未払い残業代を支払わざるを得ない状況にあるようです。

【歩合給と年次有給休暇】
 年次有給休暇(以下、「年休」)を取得した日に対しては、おそらく毎月固定額で支給する基本給や手当をそのまま固定額から控除せずに支給さているのではないでしょうか。一般的には、その取扱いだけで問題ありません。問題は、歩合給の取扱いです。
 年休を取得した日に対して支給すべき額の計算方法として、歩合給については「その賃金計算期間(当該期間に歩合給がない場合は、当該期間前において最後に歩合給が支給された賃金計算期間。以下同じ。)における歩合給の額を当該賃金計算期間の総労働時間数で除した金額に、当該賃金計算期間における1 日平均所定労働時間数を乗じた額」を支給しなければならないとされています。
 文章がかなりややこしいので、計算例を示します。
 例)「歩合給10 万円、1 日所定8 時間、その月の総労働時間数を200 時間」10 万円÷ 200 時間× 8 時間= 4000 円
 以上の例の場合、年休取得日に対しては、基本給や諸手当等をそのまま支給することに加えて、別途1 日につき4000 円を支給しなければならないのです。内容証明による請求は、おそらくこのことかと思われます。

【歩合給をどうするか】
 既述のとおり、毎月歩合給を支給することは、事業所にとって面倒の極みといっても過言ではありません。今回を機に、歩合給は毎月支給するのではなく年3 回の賞与で支給とするように変更することも考えられます。
 ガンと売上が上がって入金があれば、すぐに歩合給支給という流れの方が事業所も労働者も幸せでしょう。しかし、既述の時間外手当や年休の法規制を考えると、実に悩ましいことになります。ここから先は、経営判断ですね
。  歩合給と残業代については、以前からよく問題になっていました。年休については、令和に入るかどうかくらいから言われるようになってきました。しかも年休の歩合給分計算方法には、何かと矛盾も多く、変なリスクがあります。可能なら、賞与化することをお奨めします。

【運用】
 法律上は以上のとおりですが、運用においては各事業所の裁量により法律を上回る取扱いをすることは任意です。実際、慶弔休暇を有給休暇として取り扱う事業所は少なくありません。「鬼の形相」でクレームを付けられたから有給休暇扱いに変更すると、こちらが間違っていたようでイヤですね。検討されるなら、次回以降を対象とすべきでしょう。法律上義務のない有給休暇を創設する際に注意しておきたいことは、「二度と後戻りできない」という覚悟が必要だということです。無給から有給への変更はいつでも自由にできますが、有給から無給への変更はいわゆる不利益変更にあたるため、そう簡単にはいきません。慎重にご検討ください。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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