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【パワハラにあたるかどうか】
パワハラには、大きく分けて2 つのタイプがあると考えています。1 つは、パワハラ加害者がパワハラ気質の人間で、何ら非のない従業員に対してパワハラ言動を繰り返すタイプです。もう1 つは、問題のある従業員に接する立場にあたる上長等が、行き過ぎた注意指導等を行ったことによりパワハラにあたってしまうケースです。今回ご相談いただいた事案がパワハラに当たるのであれば、後者ということになります。
問題は、パワハラにあたるか否かですが、厳密にはわかりません。被害を訴えた従業員の勤務実績や態度の問題の程度、発言時の状況や背景・目的、その他を総合的に検討する必要があるからです。貴社がお考えのとおり、具体的な発言内容や8 回にも及ぶ再提出命令だけを見ると、パワハラに当たる可能性が高いと考えられます。しかし、被害申告した従業員はミスを繰り返し、仕事を覚えようともせず、期限を守らず報告相談等もしなかったわけです。上長による注意指導が多少強くなったとしても、業務上の指導の範囲内だと認められる可能性がゼロとは言えません。
【類似裁判例】
類似裁判例として、ファミティーホーム事件(大阪地裁、令6.11.22 判決)があります。この事件の上長は、貴社の上長と全く同じ発言をし、始末書8 回再提出等をさせました。さらに机に手帳を叩きつけたりもしています。しかし裁判所は、「発言は、その一部のみを切り出すと適切性に疑問があるものの、その発言がなされるに至る経緯に鑑みると、原告の人格を否定する趣旨でなされたものと断ずることはできず、社会通念に照らし、業務上の適正な指導の範囲を逸脱した違法なものであったとまでは認められない。」等と判断しています。結論として、パワハラであることを否認したのです。完全に白とまでは言っていませんが、黒ではないという判断です。
【今後の対応】
類似裁判例の判決が絶対だとは言いません。しかし、参考になります。貴社の場合も、発言内容等だけを切り取ってパワハラに当たると決めつけず、慎重に事実確認を進めていただきたいと思います。その結果、パワハラでないと判断するのであれば、内容証明による請求に対し、毅然と拒否して良いと思います。
ところで、小職は別の点でとても残念に感じたことがあります。このような従業員に対し、1 年以上にもわたって1 度も懲戒処分をすることなく、始末書を書かせただけに留まることは、大問題だと考えます。単に覚えが悪いだけでなく、ミスを指摘しても反抗的だし、指示された仕事を期限内にしないばかりか報告や相談等もないわけですから、明確な非違行為です。今回の問題が発生しなければ、いつか上長が精神的に参ってしまったかもしれません。
懲戒処分をしないことは、問題の放置であって、問題社員の「問題」を黙認していると客観的に評価されることにつながります。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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