司法書士のつぶやき

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福岡!企業!元気!のための知っておきたい会社の法律知識 《平成25年9月号》
全部取得条項付種類株式について

 みなさん、こんにちは。司法書士の安藤です。
 前回は、種類株式についてのうち、取得条項付種類株式について説明させていただきました。
 今回は、前回の取得条項付種類株式と非常に名前が似ている全部取得条項付種類株式について説明をさせていただきます。名前は良く似ていますが、内容は全く異なりますので注意が必要です。

 全部取得条項付種類株式とは、株主総会の特別決議によってその種類の株式の全部を取得するという内容の種類株式を言います。この種類株式を導入することができるのは、種類株式発行会社のみですので、普通株式のみを発行する会社(一般的な会社)が普通株式を全部取得条項付種類株式とするためには以下の手続きを行うことになります。

 (1)株主総会の特別決議により、何らか他の種類の株式に関する定款の定めを設けて、種類株式発行会社となる(決議1)

 (2)発行済みの普通株式を全部取得条項付種類株式に変更する。この場合、定款変更のための株主総会の特別決議のほか、普通株主の種類株主総会の特別決議が必要となる(決議2)

 (3)株主総会の決議により当該株式の全部を取得するときに、
 (a)取得対価を交付するときはその種類、内容、数、額または算定方法
 (b)全部取得条項付種類株式の株主に対する取得対価の割当てに関する事項
 (c)取得日
 を株主総会の特別決議により定める(決議3)

 上記(a)(b)(c)の決議は、すべて同じ株主総会で決議することができますが、非常に手続き上も高度であるため、漏れのないように手続きを進めていく必要があります。取得対価は交付しないことも可能ですし、取得対価を交付する場合で、取得対価に争いがある株主は、裁判所に価格決定の申立を行うことになります。

 そもそも、この全部取得条項付種類株式は、会社が債務超過の場合に既存株主が保有する株式をゼロにする100%減資を容易に行うために導入されたのですが、現在の実務ではM&Aの前段で利用するケースや上場会社の非上場化を行う際に利用されていることが多くなっています。
 なお、上場会社の事例においても取得対価の妥当性や強制的に株主から排除されることについて、相次いで訴訟が行われていることからも、全部取得条項付種類株式を利用したスクイーズアウト(少数株主排除)を検討する場合には、紛争に発展する可能性があることや、この場合のコスト等導入時の影響も十分に検討していく必要があるものと思われます。

回答者  司法書士 安藤 功
会社設立・役員変更・増資・組織再編・事業承継等に関する各種登記手続き
安藤功司法書士事務所
司法書士 安藤 功
〒810-0042 福岡市中央区大名2-4-22新日本ビル5階
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