財務会計の散歩みち

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福岡!企業!元気!のための財務会計ワンポイント 《平成25年5月号》
経営と財務−どうして倒産したの?

 こんにちは。丁度この原稿を書いている日に予算審議が衆議院を通過しました。目下アベノミクスとのフレコミで株式市場や為替相場が賑わっているようです。一方で、超金融緩和措置の結果、日銀の資産の質はどのように変化してゆくのだろうか、過去最大の人口減少を記録し超高齢化社会が現実化する中で、企業活動や家計はどうなってゆくのだろうか、どうも経済政策の変数以外のことがらが気になって仕方ありません。
 さて、今回から散歩みちは、「経営と財務」というテーマで、自分の仕事を振り返ってゆきたいと思います。

【経営者からの相談と対策】
 「再来月の借入金の返済原資に窮しておりまして・・・」
 「来月の手形が落とせそうにありません・・・」
 「急に銀行から手形借入の更新を拒否されまして・・・」
 いずれも倒産危機の状況です。どのような選択肢があるのでしょうか?

 財政状況が窮してしまいますと、おおきく道は、「再生させる」か「破産させる」かの2つに分かれます。
 例え話ですが、経営者の方が慌てて専門家に相談したところ、その場で「再生」「破産」二者択一を迫られてしまいました。

 その専門家のアドバイスはこうです。
 「一度滞ったら追加の借入が見込めないので、頑張っても現金が減ってゆきますよ。今なら破産することだって出来ます。重たい負債を帳消しにして、一から頑張った方がやり直しも聞くし、楽になりますよ。」

 その経営者は、このまま続けたら破産もできなくなってしまうことに恐怖を感じ、その専門家に対して、その日のうちに破産の手続をお願いしてしまいました。
 果たして選択肢は、2つしかなかったのでしょうか?
 私は、少なくとも、これだけのやり取りでその日のうちに結論を出すようなことではないのではないかと思います。
 例えば、  〇どうして資金繰り難に陥ったのか(窮境原因の把握)
 〇会社は今どうなっているのか(現状把握)
 〇ご商売の先行きはどうなのか(事業性の分析)
 〇協力してくれる方はいないのか(支援者の探求)
 〇破産した場合に取引先や従業員が残るのか(破産のメリット・デメリットの比較)

 これだけのことを冷静な目で分析するだけでも1週間以上かかるように思います。結論はそれからでも全然遅くないですし、経営者も恐怖にかられず腹を据えて決断をすることができるのではないでしょうか。

 参考として、一時的な資金繰りの猶予を頂くための手続きとして、俗に「一時停止」と呼ばれる手続きがあります。
 これは、主に金融機関の債権者を対象として行われます。なぜ金融機関を対象とするかということですが、まず、仕入先の支払いを止めてしまうと次から掛けや手形で材料を仕入れることができなくなり資金繰りの猶予になりませんし、仕入れるモノが止まると売るモノがなくなってしまいます。また、これまで金融機関に対する大きな延滞実績がない企業であれば、できる限り迷惑をかけないことを意思表示し、事業計画を作成するまでの猶予を真摯な態度でお願いすれば数ヶ月程度の猶予には応じてくれるのではないかと思います。利息は払わなければなりませんが、元本返済が3ヶ月止まるだけでも考える時間が与えられるように思います。
 ただし、「一時停止」には、デメリットもあります。金融機関からすると破綻する可能性のあるリスク先として認識されてしまいますので、追加融資を諦めざるを得なくなるということです。

【思うこと】
 たらればのお話にしかならないのですが、あと半年早めに現状分析をさせて頂けたら通常の借換え(リスケジュール)や制度融資の活用で、通常先として銀行交渉ができたかも知れないのにと思うことも少なくありません。
 企業経営は、いわば競争ですので勝つこともあれば負けることもあります。窮するまで対応できなかったこと自体が必ずしも経営者の過ちということではありません。そこまでに至る事情や経緯が何かしらあるからです。
 そう思うと、やはり日ごろから経営者の方との綿密なコミュニケーションが図れているのかどうか。何でも話で頂けるような立場でいることができるかどうか。一専門家として、自分自身にも問いかけるわけでございます。

 また、続きは次回にいたします。

 ご意見・ご要望などありましたら、下記メールアドレスまでお寄せください。
 なお、当記事は、私の私見であることをお断り申し上げます。

回答者 公認会計士 松尾 拓也
如水監査法人・如水税理士法人
如水コンサルティング
パートナー
公認会計士・税理士 松尾 拓也
福岡市中央区赤坂 1 丁目 12 番 15 号 福岡読売ビル 9 階 如水グループ内
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