財務会計の散歩みち

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福岡!企業!元気!のための財務会計ワンポイント 《平成25年6月号》
経営と財務−再生の条件『自助努力』

 こんにちは。このところ株高・円安と順調に推移する中で、安倍内閣の成長戦略の第2弾なども発表され、企業業績も好調の決算発表が続いています。この調子で、大企業の業績が上がってゆき、また、生産拠点の国内シフトなども起きてくれたらなあと切に願います。
 さて、「経営と財務」というテーマでお話をしておりますが、前回は、手を上げる前に検討すべきことはないかということで私見を申し上げました。
 今回も、財政状況の厳しい企業を題材としてお話を進めてゆきます。

【再生と破産の境目】
 財政状況が厳しく、そのままでは事業の継続が困難な企業にとって、その事業を「再生」させるのか、あるいは「破産」するのか、非常に重たい決断を迫られる場面があります。  企業を「再生」させるには、どのようなハードルがあるのでしょうか。

【自助努力】
 まず、最低限の条件となりますが、会社として負債を抱え過ぎて返済もままならないような状況であっても、黒字が出せる事業が残っていれば再生できる可能性があります。
 その企業は、その黒字の事業以外の要因で経営に困窮しているはずですので、その不採算要因をまずは自らの努力で取り除く必要があります。

 赤字事業の撤退や不稼働資産の処分、役員報酬・人件費のカットなどが最初に思い浮かぶのですが、単に、赤字事業を切り捨てれば良いという発想だけでは足りません。より細かく分析することで経営効率を良くすることも検討すべきです。

 例えば、利益を商品別、得意先別、地域別等に分析をします。その中で、採算の取れているところや確実に将来性があると判断できるところに資源を集中させるという発想はどうでしょうか?

 例えば、事業所や車両や設備・備品について、本当にそれだけの数が必要なのかを考えてみましょう。外回り中心の営業担当者が配属されている営業所で、営業担当者毎の机が果たして必要でしょうか?交通の便の良い都会部の営業担当者1人につき1台の営業車が必要でしょうか?先に述べた地域別採算分析で赤字となっている地域に事業所が必要でしょうか?

 いろいろと発想を組み合わせると利益対策やコスト対策に繋がるような作戦も出てくると思います。私の知っている卸売業者になりますが、
 引き合い→仕入発注→仕入納品→売上受注→品出し→売上納品→請求→売掛回収
 という一連の取引の流れを分析し、2つの取り組みを行いました。

 ひとつは、「作業の標準化」です。同じプロセスなのに部署ごとにやり方が違ったりします。その違いを洗い出して、何故違うのか?どちらが効率的なのか?を検討しました。その事例では、非効率な手続きをしていた部門で管理職の不正という人的要因も見つけることができました。

 もうひとつは、「考える仕事と単純作業の区分」です。少し事例を並べてみますので、「考える仕事」と「単純作業」に分けてみてください。
 ◆営業担当者の場合
 @月々の売上目標を立て、Aこれまでの顧客の購入状況や要求事項を理解し、Bアポイントをとり、C提案し、D引き合いを取り、E受注の可能性を考慮してF仕入担当者へ連絡する、G受注する、H納品情報に基づき請求書を発行する、I売掛金を回収する。
 ◆倉庫担当者の場合
 @営業担当者から引き合い情報を入手する、A出荷計画を作成する、B出荷計画に基づき商品を発注する、C仕入納品・検品を行う、D商品を倉庫に整理する、E受注情報に基づき商品を品出しする、F売上出荷・検品を行う、G期末に商品棚卸しを行う。
 私の知っている事例では、「単純作業」のパート化を図りました。一方で、営業担当者や倉庫担当者の業績評価も明確にして、考える仕事に専念できるように取り進めました。

 話を戻しますが、再生ということであっても、まずは、自助努力により黒字事業を生み出すことが必要ということです。基本的な考え方になりますが、改善の結果生じた事業の黒字により負債の返済条件の変更や場合によっては債権放棄を要請するというのが事業の再生になります。
 金融機関にも、金融支援要請に応じるだけの経済的な合理性が必要になります。言い換えると、そのまま倒産させるよりも多くの回収が見込めるから債権放棄などにも応じるということです。

【思うこと】
 今回書いた「自助努力」は、再生企業に関わらずどの企業にも通常に当てはまるようなお話だと思います。事業の再生に至ったということは、そういった自助努力が足りなかった結果であることも少なくありません。
 それまで社内の諸事情により触りにくかったことが、再生を機会にメスを入れることができたということもあります。  事業再生の現場では、債権者の意向がどうしても大きく影響しますし、過去の赤字要因が経営者の判断あることも多く、「まな板の鯉だ。」と経営者自身が思いこんで悲観的になってしまうケースも見られます。
 そうではなく、過去の失敗は失敗で冷静な目で反省した上で、この機会を、第三者も含めたより多くの客観的な視点で経営改善を図る絶好のチャンスだと考えて頂けたらと思います。事業の再生を成功させることによって、最悪の事態を防ぎ、従業員や取引先そして金融機関の方に、できる限り迷惑をかけない形で事業を健全化に向かわせる。それも経営者の責任のひとつではないかと思います。

 また、続きは次回にいたします。

 ご意見・ご要望などありましたら、下記メールアドレスまでお寄せください。
 なお、当記事は、私の私見であることをお断り申し上げます。

回答者 公認会計士 松尾 拓也
如水監査法人・如水税理士法人
如水コンサルティング
パートナー
公認会計士・税理士 松尾 拓也
福岡市中央区赤坂 1 丁目 12 番 15 号 福岡読売ビル 9 階 如水グループ内
TEL092-713-4876 FAX092-761-1011
e-mail:info@matsuo-kaikei.com
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