こんにちは。最近、「日本郵政がオーストラリアの物流大手企業を買収する」といった報道がありました。一体いくらで買うのでしょうか。というわけで、今回から、「企業価値」について話をします。
中小企業においても、「経営を息子に引継いで、株式も譲った」、「株式の相続を受けた」、「株式をまとめたいが兄弟が譲ってくれない」といった、企業の価値評価に係わるお話を耳にします。
取引の対象と企業価値の概念
単に、企業の価値といっても、取引の対象が何かによって、捉え方が異なります。
「事業価値」:事業から創出される価値
「企業価値」:事業価値に加えて、事業以外の非事業資産の価値を含めた企業全体の価値
「株主(株式)価値」:企業価値から有利子負債等を差し引いた株主に帰属する価値
図1
(出処:日本公認会計士協会「企業価値ガイドライン」)
企業が、ひとつの事業部門のみを事業譲渡するようなケースは「事業価値」を採用し、事業の全部譲渡をする(有利子負債等を承継しない)場合は「事業価値」を採用し、株式譲渡や合併などの再編行為の場合は「株主(株式)価値」を採用することとなります。
今回は、「株主(株式)価値」を中心に話を進めていきたいと思います。
同族株主間の株式価値を巡って
上場企業の場合は、「市場」が存在します。従って、一般的には市場株価で取引が成立します。しかし、非上場企業の場合は、市場株価が存在しませず、その評価方法もまちまちであるため、売り手と買い手の評価額が異なるケースが生じます。
実務上、非上場企業の株式の取引価格について、同族株主間であれば、税法の規定・通達を参考に決定されることが多く見られます。取引の当事者となる同族株主間の関係が友好的であれば、お互いに税務メリットのある価格で合意形成されることが多いということです。
しかしながら、同族株主間の関係が友好的でない場合は、そうもいかないケースが生じます。
(事例)
A社と仲の悪い親族で少数株主の甲の死亡により、息子乙が株式を相続した。
A社は、相続された株式の売渡請求権を有していたため、乙に対し株式の売渡請求を行った。
A社は、税法規定・通達を参考に、20万円を提示した。
乙は、これを不服とし、裁判所に売買価格決定の申立てをした。
裁判所は、専門家の作成した株式評価鑑定書を参考に、売買価格を300万円と決定した。
A社は、乙に対する売渡請求を撤回した。
事例では、税法評価と専門家の鑑定価格に大きな開きがあります。税法の規定・通達は、あくまで相続・贈与・譲渡に関する税額を算出することを目的として、一定の計算方法を定めているに過ぎず、一般的な株式評価の方法とは、必ずしも一致する保証はないのです。
結果として、A社は、多額の弁護士費用を使い、多大な労力と時間を費やしたのみに終わりました。A社が事前に自社株式の評価について正しい見識があれば、乙に対する売渡請求をせずに済んだかもしれません。
(つづく)
回答者 公認会計士 松尾 拓也
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