今回は、在庫のお話の続きです。前回は、「まず在庫を整理・整頓しましょう」、「受払いを正しく記録しましょう」というお話をしました。
在庫は、 1年を通して常に移動を繰り返す資産です。 まったくのミスなく在庫を整頓し、受払いを正しく記録することは、現実的には難しいことです。どうしても人が行うことですので、ミスは生じます。また、在庫の横流しや架空在庫の計上など、不正が生じるリスクも企業は抱えています。
さらに、在庫は、価値が減価してゆく資産です。衣料品であれば、シーズンを超えれば型落ちになりますし、今の商品にとって代わるような新製品がでれば、今の商品は顧客にはウケないものとなってしまいます。
これらのリスクを管理するために、「棚卸」を行います。
棚卸の目的
棚卸しの目的は、大きく2つの目的があります。
■ 在庫の記録と実在庫が一致しているかを確かめ帳簿記録を正しく修正すること
■ 在庫の商品価値が下がっていないかを確かめ、在庫の単価を修正するとともに、販売方法の再検討を行うこと。
単に、管理簿の在庫高を実在庫高に書き換えれ ば良いというものではありません。管理簿の在庫高と実在庫の差異が何故生じたのかを分析し、正しい修正処理を行うことが必要です。差異の要因別に見てみます。
A)入出荷・返品の処理漏れ:仕入高の過不足ですので仕入高を修正
B)在庫のカウント漏れ・二重カウント:再度実在庫高を調査 修正は不要
C)架空在庫:仕入高を修正するとともに、架空在庫が計上された経緯を調査
※部門長が、部門損益を良く見せるために故意に計上している可能性があります。
D)流用・横領:雑損又は特別損失を計上するとともに、不正を働いた者への対処を図る
このように、在庫の差異が生じた要因により、会計処理も変われば、社内の対応も変わってきます。やみくもに、すべての差異を仕入高の修正としてしまうと企業の正しい利益も見えなくなってしまいます。
また、棚卸は、商品の価値を目で確かめることができる数少ない機会です。普段、営業担当者や商品の管理担当者は、その在庫が生きているか死んでいるかをある程度把握しているかも知れません。しかしながら、日常業務の中では、それでも、できる限り売り切ろうと努力をしていることが常であり、担当者の普段の判断の中で、その在庫の価格を下げたり、 見切り品としてしまうことは、 よほど明確な事実がない限り難しいように思います。
そのため、棚卸の機会を利用し、社内の制度として、直接目で見て、在庫の価値の評価をすべきということです。このような機会を逃すと、売れないものがいつまで企業に残り資金化できないばかりか、在庫が既に売れ筋でなくなっていることに企業として気付かないなど、経営効率を落としてしまう要因にも繋がります。
上に述べた棚卸の2つの主目的を経営者・従業員全員が理解していることが大切です。
棚卸の頻度
では、次に棚卸をどの程度の頻度で実施すべきかを考えてみましょう。その企業の業態や在庫の特性などによって、棚卸の頻度は変わってくると思います。
■期末棚卸
決算期末は、棚卸は必須です。企業は、年に1回の決算で決算書の金額を確定させる必要があります。このタイミングで、在庫の実際残高を確認するのは当然のことです。また、在庫の評価額の決定も決算のタイミングで実施するのがもっとも適切だと思います。
従って、棚卸の基準日は決算期末日ということになります。中間決算や四半期決算を行う企業は、それぞれの決算日ごとに行うことになります。
また、実際の棚卸をいつするのかということですが、やはり原則は決算期末日に社内一斉に行うのが一番効果的かと思います。しかしながら、実務上、月末日に棚卸をすることが困難なケースもあります。その場合は、できるだけ決算期末日に近い日でもって、一斉の棚卸を行い、棚卸日と期末日については、帳簿上の増減により期末残高とする方法が取られます。これもあまり日がたってしまうと、その間の帳簿記録がズレる可能性が高くなってきますので、正しい決算数値が出せないということに繋がってきます。
■月次棚卸
在庫をより適切に管理しようと思えば、毎月棚卸を行うことが望まれるでしょう。例えば、単価が高い商品や危険物などを取扱う企業は、在庫の管理レベルは高くしておくべきでしょう。
また、月次の棚卸については、社内一斉に行うのではなく、商品ごとや店舗ごとに、数ヶ月に一度の頻度で、棚卸対象を循環させるやり方で、作業の負担軽減を図っているケースもあります。
回答者 公認会計士 松尾 拓也
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