財務会計の散歩みち

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福岡!企業!元気!のための財務会計ワンポイント 《平成28年1月号》
財務会計の散歩道−内部牽制とモニタリング

 こんにちは、今年も宜しくお願いいたします。健全な財務管理のためのチェック体制のお話しをしたいと思います。
 大きく事前のチェック体制と事後のチェック体制に分けて説明をします。前者のことを「内部牽制」、後者を「モニタリング」といいます。今回は、前者の「内部牽制」についてお話しを進めたいと思います。

事前のチェック体制「内部牽制」
 内部牽制の手法として、「承認」、「検認」、「分掌」といった手続が考えられます。
 まず、「承認」について説明します。いろいろな取引を実行する前に、当社の目的に合っているかどうかを上位者や上位機関が検討し、取引の実行を承認する手続です。
 承認の手続は、会社所定のルールに基づいて、稟議書、申請書や伝票等の承認欄などの書式により文書化されます。これにより、取引の申請者が不正や会社の目的に沿わない取引の実行を防止するとともに、社内での責任を明確化します。これだけでなく、記録として残すことは、税務調査等の際の資料(疎明資料)として、取引の正当性を主張する根拠となります。
 契約締結や重要な取引の実行については、現場任せにせず、経営者が判断すべき事項です。経営者が判断すべき事項については、「稟議書」を作成し、稟議承認を要することとします。この中でも、法定事項や特に重要な稟議事項については、取締役会承認とします。
 日常業務で、権限の委譲が可能なものについては、所属部課長の承認事項として、申請書による承認や伝票等の承認欄の押印によって、進めることとし、スムーズな意思決定ができるようにします。例えば、交際費や少額物品購入、残業などは、事前の申請書を作成し上位者承認としたり、支払処理に関して、支払伝票に上位者承認印がなければ、振込ができないルールとしたりすることなどが挙げられます。
 また、得意先との取引条件や値引・返品については、不採算取引や従業員不正を防止する観点から、承認手続を決めておくべきだと思います。

 次に、「検認」について説明します。これは、社内の文書やデータのやり取りに関して、作成者以外の第三者がチェックを行い、データの処理誤りをなくすことを言います。例えば、会計仕訳について、仕訳ごとに、入力担当者以外の人が、基礎資料と突き合わせて、検印を押すことが挙げられます。また、得意先へ発送する請求書が売上データと合っているか、仕入先からの請求書が仕入データと合っているかは、企業の損益を正確に把握できるかの根幹部分ですので、やはり、手続を踏んでおくべきでしょう。

 3点目の「分掌」についても説明しましょう。これは、不正が生じるリスクの高い業務については、ひとりに任せず、業務を2人に分けて、不正が生じにくい仕組みを作ることを言います。具体的には、預金の入金・引出に関して、通帳管理者と会計記帳担当者を別にすることなどを言います。現預金、受取手形、商品在庫、有価証券など、換金性のある資産を管理する場合は、現物を管理する人と情報システムの作業をする人を分けておくような取り組みが大切となります。
 営業担当者が、得意先から現金回収をするようなケースでは、システムデータである請求書は、経理部から直接送付することによって、着服できないような体制を取っておくことが大切です。
 従業員数が少なく、分掌が効果的に実施できない場合は、現預金の出納帳、手形管理帳などの管理簿を日々上位者が検認するなど、別の牽制手続の頻度を強化するなどの考慮が必要です。

ルールの周知徹底
 内部牽制は、事前のチェックであり、有効に機能すれば事故の発生自体を防ぐことができます。事故が生じた後の対処は、企業にとって、大きな負担となることから、出来る限り事前の対策によって企業防衛を図ることが大切だと考えます。
 また、内部牽制の制度を作るとしても、承認権者や検認者が、その取引や処理が正しいのかを知っておかなければ、制度設計の意味がなくなってしまいます。
 その企業にとって何が正しくて、何が正しくないのかをすべての従業員が判断できるように、能力に応じた人材配置や従業員の教育訓練が必要ということです。
 経営者が経営方針として、このような視点を持っていれば、その企業の経営は健全な方向に向かうのではないかと思います。

回答者 公認会計士 松尾 拓也
まつお会計事務所
公認会計士 松尾 拓也
福岡県福岡市博多区綱場町6-15 川野ビル1F
TEL092-272-0710 FAX092-272-0711
HP: http://smaken.jp/user/usc_to.cgi?up_c1=43440
e-mail:info@matsuo-kaikei.com
※当記事は、著者の私見であることをお断り申し上げます。
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