財務会計の散歩みち

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福岡!企業!元気!のための財務会計ワンポイント 《平成28年7月号》
財務会計の散歩道−業績の評価

 決算や株主総会の時期になると、当期の業績や翌期の予算などに対して、第三者としてコメントを求められることが多くなります。経営者や管理職の方も、上がってきた業績や予算に対して、内容を吟味し、妥当なものかどうかを評価しなければなりません。
 A 社(単独事業)の損益実績と来期予算案が、経営会議に出されました。

                                            (百万円)
 NO  項目  前年  予算  実績  前年比  予算比  来期予算 
 1  売上高  10,200  12,000  10,900  700  △1,100  11,500
 2  売上原価  8,600  10,000  9,200  600  △800  9,600
 3  売上総利益  1,600  2,000  1,700  100  △300  1,900
 4  利益率  15.7%  16.7%  15.6%  △0.1%  △1.1%  16.5%
 5  販管費  1,550  1,730  1,550  0  △180  1,590
 6  変動費  600  630  650  50  20  640
 7  固定費  950  1,100  900  △50  △200  950
 8  営業利益  50  270  150  100  △120  310
 9  利益率  0.5%  2.3%  1.4%  0.9%  △0.9%  2.7%

 【A 社の社是】
 ・社員一人一人のひたむき努力が、社会を豊かにする
 【当期予算方針】
 ・既存顧客とのコミュミケーションを密に図ることにより、潜在的ニーズを引出増収を図る
 ・在庫ロスの解消、在庫回転率の縮小
 【当期業績の概要】
 ・売上高 食品群 前年+500 予算△800 日用品群 前年+100 予算△100
 ・売上総利益 食品群 前年+20 予算△200 日用品群 前年 80 予算△50
 ・販管費 人件費 前年±0 予算 △100
 【来期予算方針】
 ・取扱商品の拡大
 ・逆ザヤ商品の見直し

 会議で提供された情報は、上記のみです。経営者であるあなたは、これをどのように評価しますか?
 つぎに、読み進む前に、いくつの疑問点が生じるか考えてみてください。

実績評価について
 売上高、売上総利益について、前期比、予算比の内訳は報告されていますが、その理由と予算方針に対する評価が報告されていませんね。
 「顧客の潜在的ニーズは、引き出せたのか引き出せなかったのか?」
 「在庫ロスは、縮小したのか? 在庫回転期間は縮小したのか?」
 「売上総利益率が減少した理由は何か?」
 「人件費予算未達の理由は何か?」
 社長は、各部署の責任者に、これらのことを確認していった結果、以下のことが判明しました。
 ・顧客コミュニケーションを図るべく営業人員の増員と若返りを図ったが、採用人数が予定人数に満たなかった。
 ・予算未達のため、期末賞与を減額した。
 ・売上の掘り起こしができた顧客もいるが、一方で、営業担当者の経験不足によるロストやクレーム返品も多かった。
 ・在庫ロスは減少傾向にある。
 ・利益率の高かった大口顧客が、期中に経営統合され、当社の口座が他社に奪われた。

 もう 1 点、 「変動費」にも矛盾がありますが、気付かれたでしょうか。

                                            (百万円)
 NO  項目  前年  予算  実績  前年比  予算比  来期予算 
 1  売上高  10,200  12,000  10,900  700  △1,100  11,500
 6  変動費  600  630  650  50  20  640
   変動費率  5.9%  5.3%  6.0%  0.1%  0.7%  5.6%

   予算上、変動費率の削減を計画しているにも関わらず、実績は変動費率が上昇しています。原因は、配送運賃の増加によるものでした。

 このように、掘り下げて業績を評価すると、今期の営業の状況が、具体的にわかるようになりました。
 さて、この状況を踏まえて、来期予算を再度、検討してみましょう。
 やはり、多くの疑問にぶつかるはずです。

 本日は、ここまで。

回答者 公認会計士 松尾 拓也
まつお会計事務所
公認会計士 松尾 拓也
福岡県福岡市博多区綱場町6-15 川野ビル1F
TEL092-272-0710 FAX092-272-0711
HP: http://smaken.jp/user/usc_to.cgi?up_c1=43440
e-mail:info@matsuo-kaikei.com
※当記事は、著者の私見であることをお断り申し上げます。
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