決算や株主総会の時期になると、当期の業績や翌期の予算などに対して、第三者としてコメントを求められることが多くなります。経営者や管理職の方も、上がってきた業績や予算に対して、内容を吟味し、妥当なものかどうかを評価しなければなりません。
A 社(単独事業)の損益実績と来期予算案が、経営会議に出されました。
(百万円)
NO | 項目 | 前年 | 予算 | 実績 | 前年比 | 予算比 | 来期予算 |
1 | 売上高 | 10,200 | 12,000 | 10,900 | 700 | △1,100 | 11,500 |
2 | 売上原価 | 8,600 | 10,000 | 9,200 | 600 | △800 | 9,600 |
3 | 売上総利益 | 1,600 | 2,000 | 1,700 | 100 | △300 | 1,900 |
4 | 利益率 | 15.7% | 16.7% | 15.6% | △0.1% | △1.1% | 16.5% |
5 | 販管費 | 1,550 | 1,730 | 1,550 | 0 | △180 | 1,590 |
6 | 変動費 | 600 | 630 | 650 | 50 | 20 | 640 |
7 | 固定費 | 950 | 1,100 | 900 | △50 | △200 | 950 |
8 | 営業利益 | 50 | 270 | 150 | 100 | △120 | 310 |
9 | 利益率 | 0.5% | 2.3% | 1.4% | 0.9% | △0.9% | 2.7% |
【A 社の社是】
・社員一人一人のひたむき努力が、社会を豊かにする
【当期予算方針】
・既存顧客とのコミュミケーションを密に図ることにより、潜在的ニーズを引出増収を図る
・在庫ロスの解消、在庫回転率の縮小
【当期業績の概要】
・売上高 食品群 前年+500 予算△800 日用品群 前年+100 予算△100
・売上総利益 食品群 前年+20 予算△200 日用品群 前年 80 予算△50
・販管費 人件費 前年±0 予算 △100
【来期予算方針】
・取扱商品の拡大
・逆ザヤ商品の見直し
会議で提供された情報は、上記のみです。経営者であるあなたは、これをどのように評価しますか?
つぎに、読み進む前に、いくつの疑問点が生じるか考えてみてください。
実績評価について
売上高、売上総利益について、前期比、予算比の内訳は報告されていますが、その理由と予算方針に対する評価が報告されていませんね。
「顧客の潜在的ニーズは、引き出せたのか引き出せなかったのか?」
「在庫ロスは、縮小したのか? 在庫回転期間は縮小したのか?」
「売上総利益率が減少した理由は何か?」
「人件費予算未達の理由は何か?」
社長は、各部署の責任者に、これらのことを確認していった結果、以下のことが判明しました。
・顧客コミュニケーションを図るべく営業人員の増員と若返りを図ったが、採用人数が予定人数に満たなかった。
・予算未達のため、期末賞与を減額した。
・売上の掘り起こしができた顧客もいるが、一方で、営業担当者の経験不足によるロストやクレーム返品も多かった。
・在庫ロスは減少傾向にある。
・利益率の高かった大口顧客が、期中に経営統合され、当社の口座が他社に奪われた。
もう 1 点、 「変動費」にも矛盾がありますが、気付かれたでしょうか。
(百万円)
NO | 項目 | 前年 | 予算 | 実績 | 前年比 | 予算比 | 来期予算 |
1 | 売上高 | 10,200 | 12,000 | 10,900 | 700 | △1,100 | 11,500 |
6 | 変動費 | 600 | 630 | 650 | 50 | 20 | 640 |
| 変動費率 | 5.9% | 5.3% | 6.0% | 0.1% | 0.7% | 5.6% |
予算上、変動費率の削減を計画しているにも関わらず、実績は変動費率が上昇しています。原因は、配送運賃の増加によるものでした。
このように、掘り下げて業績を評価すると、今期の営業の状況が、具体的にわかるようになりました。
さて、この状況を踏まえて、来期予算を再度、検討してみましょう。
やはり、多くの疑問にぶつかるはずです。
本日は、ここまで。
回答者 公認会計士 松尾 拓也
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