財務会計の散歩みち

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福岡!企業!元気!のための財務会計ワンポイント 《平成29年3月号》
中小企業の資金調達(運転資金)その2

 前回、売上金が入るまでの仕入代金や人件費・経費の支払に充てるための必要資金を「運転資金」として、銀行から調達する話をしました。
 「利益が上がっているのに、現金がないのはどうしてですか?」
 という経営者のお話しを伺うことが少なくありません。ご相談に乗っていくと運転資金の管理が杜撰であるケースがしばしばみられます。

 一般的に、運転資金は、以下の算式で計算されます。
 「運転資金」=売上債権+棚卸資産−仕入債務

運転資金

 したがって、各月平均の運転資金の金額を銀行から借り入れるとともに、当座借越として、最も多くなる月の運転資金までの借入枠を設定しておけば、当面大丈夫であろうという算段は付きます。
 しかし、現実の実務の世界は、理論通りにはいきません。2つの実務ポイントを説明したいと思います。

 (1)売上サイクルと経費資金
 会社が商品や原材料を仕入れてから売上入金が終わるまでのサイクルがどのようになっているかで、実際の運転資金は変わります。例えば、仕入の支払サイトが2ヶ月で、商品の回転期間が 1 ヶ月、売掛金の入金サイトが 1 ヶ月であれば、売上入金が仕入支払に間に合うようになりますので、理論上、運転資金の借入は不要となるはずです。
 しかし、仕入れてから売上入金がある2ヶ月間、人件費や物件費の支払は生じます。
 したがって、売上サイクルの間に先に支払が生じる経費も運転資金として調達する必要が生じます。
 つまり、上記の図の運転資金+売上サイクル上の先払い経費を運転資金借入の枠として設定することが必要ということになります。

 (2)資産の不良化
 帳簿上の売掛金に、回収が遅延している先や回収が見込めない先が含まれていませんでしょうか。帳簿上の棚卸資産の中に、不良品や滞留品で正規の価格で販売できないものは含まれていませんでしょうか。
 このような資産が含まれている場合は、売上入金が遅延したり、予定通りの金額で現金化できなかったりして、企業の資金繰りを悪化させてしまいます。
 会計上、これらの不良化した資産を適正に管理していなければ、正常な売掛金や棚卸資産に含まれて、帳簿上表記されてしまうことになり、この資金繰り上のリスクを認識することができません。
 売掛金については、長期延滞先、貸倒懸念先の債権を「売掛金」ではなく、投資その他の資産の「破綻懸念債権等」といった科目に振替え、回収不能見込額について「貸倒引当金」を設定します。
 また、棚卸資産については、資金化できない不良品については、定期的に処分すべきです。また、陳腐化などにより正常の価格で販売できない棚卸資産については、販売可能価格まで評価損を計上すべきです。そして、この廃棄損・評価損は、集計把握しておくことが大切です。
 この2つの管理により、帳簿上の売掛金と棚卸資産は、正常なもののみ計上されることとなります。一方で、貸倒引当金の金額と廃棄損・評価損の金額が、現金化できない金額となります。現金化できない資産についても、仕入の支払は残っていますので、これは別途資金対策をしなければならないということになります。

賞味運転資金

 適正な会計処理をしていなければ、この不良資産に係る資金繰りは見通すことができません。
経営管理上も、売上見通しを考慮せずに、現場任せで仕入を行っていたり、得意先の与信をまったく検討せずに売上偏重の経営をしていたりで、結果的に資産の不良化を招いているケースもあります。
経営判断に、会計が必要となるポイントのひとつです。

回答者 公認会計士 松尾 拓也
如水監査法人・如水税理士法人
如水コンサルティング
パートナー
公認会計士・税理士 松尾 拓也
福岡市中央区赤坂 1 丁目 12 番 15 号 福岡読売ビル 9 階 如水グループ内
TEL092-713-4876 FAX092-761-1011
e-mail:info@matsuo-kaikei.com
※当記事は、著者の私見であることをお断り申し上げます。
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