財務会計の散歩みち

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福岡!企業!元気!のための財務会計ワンポイント 《平成29年12月号》
財務会計の散歩道−棚卸資産(実地棚卸の事前準備)

 実地棚卸は、単に期末に在庫をカウントすればよいというものではありません。
 ・企業の帳簿記録と現物が一致するか
 ・現物が正常な状態にあるか
 が正確に分析できて初めて企業の在庫管理や財務管理に役立てることができます。
 正確な実施棚卸を進めるには、その事前準備がとても大切です。

 実施棚卸の事前準備
 実施棚卸の行うに当たり事前に準備すべき主な項目は、以下のとおりです。
 (1)レイアウトに従った現品整理
 (2)カットオフ(入出庫締め)
 (3)棚卸票の作成・管理

(1)レイアウトに従った現品整理
 普段、在庫保管場所は、在庫の入出荷のために在庫を置いています。実地棚卸のための保管がなされているとは限りません。同じ在庫でも、入出荷の都合に合わせて複数の場所に点在していることもあります。また、普段入出荷の少ない在庫は、目につかない場所に置かれている可能性があります。実地棚卸では、これらの在庫を洩れなく重複なく数えなければなりません。
 また、実地棚卸は、普段在庫管理を担当していない従業員も担当することが想定されるため、在庫の在りかが明確でないと実数カウントに相当の手間をとってしまいます。
 これらへの対処のため、以下のような対処を行います。
 ・ 実施棚卸の前に、レイアウト図を作成し、どこにどのような在庫があるかを明示する・ 点在している在庫については、出来る限り一ヶ所にまとめる
 ・ 普段移動の少ない在庫については、現品整理の時点で、在庫をカウントし、カウント数を記載したメモ(仮棚卸票)を在庫に添付しておく

(2)カットオフ(入出庫締め)
 実地棚卸に当たり、単に、実際の在庫数を計上するだけでは、在庫過不足の原因が調査できず、有効な管理ができません。それでは、在庫が横流しされても発見ができない状況となります。従って、在庫の受払の帳簿を作成し、これを実際の在庫数と付け合わせる作業を行います。
 ここで、在庫の受払記録が不確かなものであれば、結局、在庫差異の原因はわからず、元の木阿弥となってしまいます。従って、在庫の受払記録の正確性を期すために、カットオフ(入出庫締め)の手続を行います。
 主だった手続を紹介します。
 ・ 実地棚卸の前日に在庫の入出荷を締切り、入荷伝票・出荷伝票の入力をすべて終わらせる(実地棚卸日の帳簿残高を確定させる)
 ・ 実地棚卸の当日は、在庫の入出荷を禁止する
 ・ 入荷しているが入荷処理未了の在庫、出荷処理が終わっているがまだ発送していない在庫、預り在庫は、「棚卸除外品」の札を付け、実地棚卸の対象から外すようにする企業によっては、前日の入出庫締めができない業種もあります。その場合は、例えば、当日の午前中で入出庫を締切り、帳簿在庫を確定させます。あるいは、店舗小売業などの場合は、当日の営業が終わってから深夜に実地棚卸を実施する企業もあります。
 コンサルに入った際に、あまり意識されていないケースが多いように感じますが、実はこの手続は、実地棚卸の効果的に実施するための肝となる手続です。

(3)棚卸票の作成・管理
 実地棚卸は、棚卸票に実数を記録し、これを集計する作業ですが、大きく2つの方法があります。

 方式  内容  特徴 
リスト方式システムから在庫リストを出力し、
在庫リストの数量と現品を突き合わせる
・在庫差異が直ちに判明する
・リスト数量を正としがち
棚卸票方式ロケーション毎に、数量が空欄の棚卸票を作成し、
これに現品数を記載する
・現品数を正確にカウントできる
・在庫差異がすぐに判明しない
・事務が煩雑
 それぞれ、一長一短ありますので、企業に適した方式を採用して頂ければと思います。ここで、大切になるのが、いずれの方式によっても、配布した棚卸票と回収した棚卸票の枚数の管理を行うことです。以下の対応が取れるよう事前に準備をしておきます。
 ・ 配布する棚卸票には、連番ないし通しページ数を記載し、洩れや紛失を発見できるようにすること
 ・ 配布枚数、回収枚数を管理するコントロールシートを作成する

 次回は、(3)棚卸の実施について、記載いたします。

回答者 公認会計士 松尾 拓也
如水監査法人・如水税理士法人
如水コンサルティング
パートナー
公認会計士・税理士 松尾 拓也
福岡市中央区赤坂 1 丁目 12 番 15 号 福岡読売ビル 9 階 如水グループ内
TEL092-713-4876 FAX092-761-1011
e-mail:info@matsuo-kaikei.com
※当記事は、著者の私見であることをお断り申し上げます。
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